「筍づくりは土づくり」京筍の名産地、大枝・塚原を訪ねて

3月下旬から4月に迎える筍のシーズン。京都らしい春の味覚は、毎年多くの人の舌を楽しませます。今回は市内に数ある産地の中でも、筍づくりに並々ならぬ情熱を寄せてきた大枝筍組合を取材し、独自の生産方法や販売の取り組みについて伺いました。

限られた期間に姿を現す「筍テント」

長い冬を終え、春の足音が聞こえたなら、待望の筍シーズンまであとわずかです。旬の味覚を求めて多くの人が百貨店やスーパーを訪れますが、西京区大枝の人たちが足を向けるのは、地元の「大枝筍組合」が期間限定で出店する「筍テント」です。

約150軒の生産者で構成される同組合では、毎年3月の下旬から5月の連休前ごろにかけて、テントで筍の即売を行っています。大枝は京都有数の筍産地ですが、大枝の中でも塚原という限られたエリアで生産され「塚原筍」は、特に高いブランド価値を誇ります。

白く柔らかな肉質とえぐみの無い風味が塚原筍の特徴。しかも、組合のテントに並ぶのはその日の朝に収穫したばかりの「朝堀り」です。「朝9時30分からの販売ですが、朝堀りの筍を目当てに1時間も前に並ぶ常連さんもいるんですよ」と教えてくれたのは、生産者の田原敏雄さんです。
「筍が土から出てくる直前には、こんもりと盛り上がって地表に小さなひび割れができます。私たちはこれに目印をしておいて、日の出、場合によってはまだ暗いうちから堀りに出かけて、まさに出てきたばかりの新鮮な筍をテントに並べているんです」。
この上なく新鮮な筍を求めて、地元のリピート客だけでなく府外からも客が訪れ、多い日には1日200kgも売れるといいます。

「JA京都市の職員さんも手伝いにきてくれることがありますが、それでも大忙しですね」という田原さん。毎年楽しみにしてくれるお客さんとテントで再会することが、何よりうれしいのだとか。

塚原筍はなぜおいしい?

大枝・塚原でおいしい筍が採れる要因は、筍の生育に適している白粘土質の土壌にあるといわれていますが、そうした環境的な要件に加えて、大枝地域で発展してきた栽培方法も大きく関係しています。

大枝では筍のシーズンが終わる5月頃になると、栄養が親竹の成長に使われることを防ぐために竹の先端を折る「芯止め」を行います。夏場には有機肥料を中心とした肥料を撒き、その後は1坪あたり1本程度になるように竹を伐採し、風通しと日当たりを確保します。伐採した竹はウッドチッパーという機械で細かく粉砕し、筍畑に撒いて肥料として再利用します。
8月から10月になると、筍づくりで最も重要な「土づくり」を行います。はじめに筍畑全面に肥料をやり、その後稲わらや草を敷き詰め、12月から1月にはその上に「土入れ」と呼ばれる作業で土を重ねていきます。こうすることで土が腐葉土になるサイクルが早まり、より筍栽培に適したやわらかい土壌ができあがります。この作業を毎年重ねることで、塚原の筍畑は地中深くまで腐葉土混じりの層が形成されています。

筍畑の一角で、土づくりへのこだわりを熱く語る田原さん。土壌が積み重なってできた地層は、先代から続く数十年の時を感じます。

一般的に、竹は浅く根を張るため、筍が早い段階で土表に顔を出します。そのぶん日にあたるタイミングも早くなり、日にあたる時間が長引くほどえぐみが増していきます。しかし、塚原では地中50cmほどまでふかふかの腐葉土混じりの土になっており、根はその中で伸びます。根から出た筍は地表に出るまでの間、日光にあたることなくすくすくと育ち、えぐみのない筍ができます。

筍畑に撒く肥料は、油かすや鶏糞などの有機肥料が中心。最近では京都の湯葉店のおからを試験的に使用するなど、栽培法の改良に余念がありません。

生産者に聞く、おいしく筍を食べるコツ

田原さんは、おいしい筍を見分けるポイントについても教えてくれました。「一番良いのは、筍の先が黄色くなって、胴体がふっくらと丸みのあるもの。皮が白ければなお良いですね。これが本当においしい京筍です」。一般的に細長いイメージのある筍ですが、実が太くても肉質が柔らかいものが多いのだとか。
また、筍は地上に出て日に当たった瞬間からえぐみが増していくため、自宅に持ち帰った後は一刻も早く皮をむき、湯がいてえぐみの進行を止める必要があります。湯がく際は一般的に米ぬかが使われますが、「塚原筍はえぐみが少ないので、水だけで十分です」と田原さんは胸を張ります。

そんな筍を知り抜く田原さんのおすすめの食べ方は、お刺身です。「筍ご飯も大好きなんですが、特に塚原筍は醬油とわさびだけでシンプルにいただくのが一番」と、素材の良さに自信をもつ生産者ならではのコメントをいただきました。

大原野や長岡、山城といった広い栽培面積をもつ産地に比べると、面積が限定される塚原筍。収穫量・流通量ともに限られるため、知名度の点では他の産地に劣るといいますが、丹念に積み重ねてきた土壌が生み出す京筍の品質面では、決して他の産地に引けを取らないと田原さんは強調します。「希少価値は塚原筍の強みでもありますが、誰にも知られなければ宝の持ち腐れです。今後はPRの機会を増やしながら、どこにも負けないこの大枝・塚原産の筍の魅力を広めていきたいですね」。

田原 敏雄さん
JA京都市版GAP取得者
JA京都市大枝支部

京都府職員を経て、春は筍、秋は柿づくりに従事。大枝筍組合理事長として、大枝・塚原の筍の魅力発信に努めるほか、JA京都市大枝支部長も務める。


筍直売所~筍テント
営業日:2024年3月28日~4月24日(毎年変更となります)
国道9号国道中山交差点下ル東側
電話:075-332-0188
営業:9時30分~12時(売り切れ次第終了)
駐車場あり(5台)

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