都市と畑を行き来するライフスタイルを提案するブランド「KEIMEN」を手掛ける岡田章吾さん。農を通してこれからの生き方を考える中で、今気になるのがJAの存在だそう。ということで、都市農業に力を入れるJA京都市を訪問。知られざる「B面」を深掘りします。
JA京都市 代表理事専務 荒木俊哉さん
京都市生まれ京都市育ち。平日はJAに勤務、週末は農家として京野菜を育て、年中無休で農的な暮らしを送る。趣味はおいしいお店巡り。
JA京都市 総務企画部課長 榎本貴文さん
淡路島出身。都市部にある農業に興味を持つ。「Link」の制作、「京ベジFESTA」の企画運営も担当。
KEIMENディレクター 岡田章吾さん
東京でのモデルの仕事と山梨県での畑仕事を往復する暮らしを続け、2021年KEIMENを始動。街でも畑でも使える服やギアを制作する。
KEIMEN(カイメン)
ウエア、帽子、軍手や靴下から鍬などの農具まで、畑仕事の道具に都市的な感覚を融合させたプロダクトが支持を集める。不定期に発行する冊子では、農から見える日本文化の魅力とこれからの生き方のヒントを発信する。
https://keimen.official.ec/
岡田さん:僕はKEIMENというブランドで畑で使える服や農具を作っているのですが、その背景には都市の若い世代に、農の楽しさや、日本に伝わる暮らしや文化の魅力を伝えたい、という思いがあります。今日はJA京都市さんが、都市の農業に力を入れていると聞いて伺いました。まずはJAという組織について教えてもらえますか?
荒木さん:簡単にいうと農家みんなで協力して、経営と生活を守っていこうという相互扶助の仕組みがJAのルーツです。たとえば生産はできるけど、販売に力がない農家が多いのならJAの方で全て売りますよとか。肥料や苗もみんなで一緒に買ったら安くなるよねと。一人だと難しいこともみんなで協力すればできる。そういう考え方ですね。
榎本さん:金融があるのも、お金がなくて困った時に助け合うための仕組みですね。
岡田さん:そうなんですね。一般的な会社とは、どのように違うんですか?
荒木さん:JAは、出資しているのも、経営するのも、利用するのも、みんな農家です。これが普通の会社と大きく違うところで、営利団体じゃないんです。だから利益だけを追いかけるのではなく、農家さんを中心に地域や人とのつながりを支えることが大切な役割なんです。
共同出荷をしない「都市農業」という個性
岡田さん:JAって、一般的には、農作物の流通を行う組織というイメージがあるように思うのですが、京都市ではどうなんでしょうか?
榎本さん:多くのJAが担う野菜の共同出荷を、私たちはほとんど行っていません。生産者さんに同じ規格の野菜を作ってもらってまとめて出荷する、というイメージがあると思いますが、JA京都市はそれをやっていないんです。
岡田さん:えっ! それは意外です。
荒木さん:私たちは少し特殊で出荷場や販売所も持っていません。生産者のみなさんが自分たちで売ってはるんですよ。スーパーに置いたり、料亭に卸したり。私も農園をやっているのですが、うちは畑の横に野菜の自動販売機を置いています。
岡田さん:生産者さんごとに、自分の販路を持っているのはすごいですね。どうしてそれが可能なんですか?
荒木さん:そこが京都市の特殊なところで、もともと中心に都があってその周囲で野菜を育ててきました。つまり、生産地の畑と消費地の都市が隣接しているんです。売り先が、畑のすぐ目の前にある感覚ですね。周りの風景を見てもらうといいのですが、ぱっと見、畑が見えないですよね。
岡田さん: 見えないです。マンションやオフィスビルや商業施設が目立ちます。
荒木さん:でも街を歩いてみると、ビルの間や道路沿いに小さな畑がたくさん残っているんです。じゃあ、その都市の中にある畑で何を育てるというと、九条ねぎや賀茂なすといった京の伝統野菜です。生産者はみんな、京都の食の伝統を残していこうというプライドを持って、畑を続けています。
榎本さん:それから、京都には「振り売り」(https://link.ja-kyotocity.jp/articles/1022/)
(https://link.ja-kyotocity.jp/articles/1011/)という行商の伝統が1000年前から続いているんです。ざるや桶を天秤棒にぶら下げて農家自ら野菜を売り歩いていたのが、今は軽トラへと変わっていますが、生産者が直接お客さんとつながる感覚は根付いていますね。
都市の中に村のつながりを生む
岡田さん:畑では、どのような作物が育てられるんですか?
荒木さん:伝統的な京野菜を少量多品目で生産する方は多いですね。そこには種を残すという責任感もあると思いますね。私も京都市から委託を受けて、野菜の種を残していますが、それだけでは商売として成り立ちません。それでもやるのは、京都の伝統野菜を絶滅させたくないからです。利益は大事ですが、「儲ける農業」だけでは守れないものもあります。だからこそ、伝統野菜や農地、人との関係も含めて、私たちは「残す農業」を応援したいんです。
岡田さん:野菜を育てることが、人や歴史をつなぐことにもなっているんですね。畑に行くとよく感じるのですが、農村ではお金の力だけでは解決できないことがたくさんあります。人と人との信頼関係の中でしか動かないことは、時間がかかりますが、そこには都市が忘れかけた大事な感覚があるように感じます。京都市ではその農村的な人のつながりが今もあるとすれば、すごいことですよね。
荒木さん:そういう面はあるかもしれません。私は生産者と飲食店を繋ぐこともあるんですが、それはあくまで個人的に好きでやっているんです。飲みに行ったお店の方が「こんな野菜が使いたい」といえば「知っている生産者さんに聞いてみますね」と。
岡田さん:それはJAの業務ではないんですよね?
荒木さん:そうなんです、だから何の利益にもなりません。でも、そういう生活の中にある人のつながりが、農業をやっていてうれしいことのひとつです。目先の儲けだけで、そうした関係を蔑ろにはしたくないですね。京都の長い歴史も、人と人との関係の中でつくられてきたはずですから。
儲けにならない、大事な仕事
榎本さん:私たちの意外な仕事というと、農家のコミュニティを支えることがあります。地域の農家の方たちと一緒に何かイベントをやったり。利益が発生する業務ではありませんが、人と人をつなぐ大切な仕事です。
岡田さん: 稼ぎにはならないけど、務めとしての大切な仕事ですね。そこも田舎の村と似ていますね。人と人との関係がちゃんと続いているというか。
荒木さん:JAに新人が入ると、地域の農家のみなさんが歓迎会を開いてくれたりするところもあります。それくらい距離感は近いですよ。
榎本さん:人の顔が見えて「あの人が言うなら信頼できる」という感覚が今もあるのは、多様な人が流動的に集まっている大都市とは、少し違う部分かもしれません。
岡田さん:都市は色々な人がいて自由で刺激的ですが、村のような安心感は得づらかったりします。一方で農村は人のつながりや安心はあっても、都市のような軽快さを感じづらいこともあります。KEIMENでは、都市の自由さの中に、村や畑で感じる生きる実感をどうつくるかを考えているのですが、JA京都市さんは、都市と村の両方の良さを大事にされている感じがしました。
榎本さん:その上で、村のコミュニティの輪を、都市という人の多さを使って、どう広げていくかがこれからの課題ですね。
荒木さん:都会は人が多く距離も近いけれど、精神的にはつながっていない部分もあります。私たちは野菜の共同出荷や販売を主な役割としているわけではありません。だからこそ、人と人をつなぐことが大切なんです。その時に、都市農業には、人が農に触れる入り口を広げる力があるはずです。
都市の中で畑を通じて歴史と人をつなぐ。共同出荷や販売だけでは見えない、JA京都市の「B面」に刺激を受けた岡田さん。都市の自由さの中に、村のようなつながりをどう育むのか。後編では、JA京都市が描く「都市農業」の可能性をさらに掘り下げます。