つなぐ × 届ける 京都の野菜。角谷さんがつくる振り売りの新しいカタチ

未経験から振り売りをはじめ、現在は一般家庭や飲食店など多くの顧客に京都のおいしい旬の野菜を届けているGg's(Green grocery’s)代表の角谷香織さん。現代の振り売りの担い手としてメディアに取り上げられることも多い角谷さんにお話を伺いました。

「畑の様子」をリアルタイムで発信

「京都の野菜屋」Gg'sを運営する角谷香織さんは、京都市内で個人宅向けの振り売りをしながら、飲食店向けの農産物の卸販売も手掛けています。もともとは音楽関係の裏方の手伝いをしており、全くの未経験から振り売りをスタート。キャリアは今年で8年目を迎え、日曜日限定営業の小売店「晴れときどき雨、のちお野菜」も運営しています。

そんな角谷さんの毎日は、京都市内各地の生産者から野菜を仕入れるところから始まります。京野菜を中心とする多品目の野菜をスタッフとともに仕分けし、その日の品ぞろえを顧客向けのLINEで発信。集まった注文に応じてパッケージ詰めし、更に直接品物を見て買いたい人向けに残りの野菜をワゴンにレイアウトして、出発です。

多い日で35か所以上を回るというタイトなスケジュールですが「仕入れ先である畑から売り先である市街地や住宅地まで車で20~30分ぐらいですし、京都市の構造として移動にかかる時間は知れています。また、万が一売れ残りがあっても、仲の良いお店にお願いしたりもできるので、京都でやるには理になかった商売だと思います」と、振り売りのメリットを語ってくれました。

振り売りの担い手が減りつつある現在、「近くで採れた新しいもの」を届ける角谷さんの存在は、長く振り売りに親しんできた地域のお年寄りからも喜ばれています。

また、品ぞろえだけでなく、仕入れ先の生産者から得られたさまざまな情報もリアルタイムで発信するのが角谷さんのこだわりです。今の畑の状況がどうなっていて、何が良く育ち、どう食べればおいしいのか。生産者しか知り得ない「畑の様子」を伝える情報は、素材にこだわる京都の料理人たちにも歓迎されています。「うんちくも大事なんですが、日々楽しく料理がしたいという意味では、一般の方も料理人も同じだと思うんです。だから旬や味の良さはもちろん、珍しい野菜や、変わった使い方ができる野菜の情報も積極的に発信しています」。

生産者さんからブドウの栽培について教わる角谷さん。スマートフォンを片手に、畑の今を発信します。

生産者の近くにいて、できることをしたい

一般的に、振り売りは野菜を作る生産者が自ら販売を行いますが、角谷さんは生産はしておらず、生産者から直接仕入れた野菜を販売しています。そのため、年間を通して良質な野菜を仕入れられるネットワークを、何より大切にしています。「生産者さんが別の生産者さんを紹介してくれたり、マルシェイベントなどで出会った人たちを中心に仕入れ先が広がっていきました。その人によって得意な野菜や農法は違うし、はっきりした基準はないのですが、どなたと話していても『この人は野菜をつくることが好きなんだな』と感じますね」。

最近取り組みはじめた新しい農法や肥料の効果、その年の気温や農産物の生育の具合など、生産者は野菜作りにさまざまな思いをこめています。こうした思いをしっかりと聞き、またその人がつくった野菜の味も自身で確かめ、感想を伝えるという角谷さん。生産者との日々のコミュニケーションが、角谷さん流の振り売りの土台になっています。

また、それぞれのこだわりや人柄だけでなく、日々自然と向き合う農業生産者ならではの「強さ」にも、角谷さんは強く惹かれるといいます。「私が農業に携わりたいと考えるようになったのは、2011年に発生した原発事故の風評被害に悩まされている福島県の生産者と知り合ったことがきっかけです。2018年の台風21号の被害を受けた京都の生産者も同様ですが、どんな状況になっても現実を受け入れ、誰のせいにすることもなく、また次に蒔く種を手に畑へと向かう。こうした強さには心を打たれますし、『私もこの人たちの近くにいたい』『私にできることをしたい』という気持ちが湧いてくるんです」。

「子どものとき、祖母の家によく振り売りがきていて、おいしい野菜を買ってもらうことが楽しみでした」と語る角谷さん。振り売りの担い手となった現在は、自身が京都のおいしい野菜を家庭に届ける立場になりました。

変化し続ける京都の振り売り文化

平日のうち4日は振り売りや配達、日曜は小売店の営業と忙しい毎日を送る角谷さんですが、その合間を縫うように農業や食に関連するイベントやワークショップなどに呼ばれ、現代の農業が抱えるさまざまな課題について考えてきました。
「例えば『在来種野菜』について考える場に呼ばれたりもするのですが、他の地域では『カルチャー』や『価値観』として語られがちなこの問題も、京野菜が身近で育てられ、売り買いされている京都では『産業』に直結するんです。他にもすぐき漬けや千枚漬けといった漬物文化が根付いていたり、祭事で使う野菜が栽培され続けてきたように、生活と文化、商売が混ざりあった独特のバランス感覚が、京都の農業の面白いところだと思っています」。

画像は上賀茂で生産される賀茂なす。「壬生菜や聖護院大根など地域名が付いた野菜が多くあったり、同じ京都市内でも地域によって生産される野菜の種類が違うのも京都ならでは」と角谷さん。

振り売りには平安時代からの長い歴史がありますが、時代ごとの社会の変化にうまく対応してきたことが、京都において現在まで振り売りが続いてきた最大の理由です。未経験から農業の世界へ飛び込み、生産者への敬意と愛着を原動力として、自分らしく振り売りを続ける。そんな角谷さんのような人たちの手によって、今日も振り売りという文化は更新されていきます。

住宅地やお寺、ホテルに懐石料理店など、今日も京都の街を巡る角谷さん。その軽やかな足どりは、京都に息づく「地産地消」文化の「今」を体現するようです。

角谷 香織さん
京都で生まれ育ち、京都の大学院を修了後、音楽業界がきっかけとなり農業の世界へ。「Gg’s」を立ち上げて京都伝統の「振り売り」をはじめ、自ら運営する店舗での販売も行う。
Gg’s Webサイト http://www.ggs-kyoto.com/index.html
Gg’s ECサイト https://ggs.theshop.jp/

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