行列のできるブドウ直売所。多くのファンを生む勧修寺観光農園の取組み

京都有数の農産地である山科では、京野菜と並んでブドウ栽培も盛んです。今回は複数の生産者が共同で運営し、互いに協力、切磋琢磨しながら品質を高め続けている勧修寺観光農園の取組みを紹介します。

京都の山科で採れるシャインマスカット

京都市山科区にある「勧修寺観光農園」では、多品目のブドウを栽培し、併設する直売所などで販売しています。毎年シーズンである8月を迎えると、もぎたての旬のブドウを求めて近隣、他府県からも客が数多く訪れ、またあっせん販売、ふるさと納税返礼品としても人気を集めています。

中でも勧修寺観光農園の名を一躍広めたのがシャインマスカットです。種がなく、皮ごと食べられるシャインマスカットは、他のブドウにはない濃厚な甘みと香りが最大の特徴。同園のシャインマスカットは大粒で鮮度が高いことで知られており、「デパートクラスの品質がリーズナブルに買える」と、遠方から足を運ぶ人も少なくありません。

「プレゼントされた方が、味を気に入ってくれて注文をいただくケースも多いですね」と語るのは、組合長を務める林さんです。特にお盆になると「朝から晩まで仕事をしても追い付かない」ほどの売れ行きを見せ、更にコロナ禍以降の巣籠り需要も販売を後押ししています。

他にも藤稔(ふじみのり)、BKシードレスなども人気ですが「売れる、売れないに関わらず、きちんとつくること」にこだわりたいという林さん。「わざわざここまで買いにきてくれたり、大切な方への贈答品に指名してくれるというのは本当にありがたいことです。その分、おかしいものがあると信用に関わりますから、何よりも品質第一、決して妥協だけはしないようにしています」。

シャインマスカットは8月初旬からハウス栽培ものが店頭に並び、その後は一部被覆、露地栽培ものを9月上旬ごろまで販売。売れ行きのピークは8月10日からお盆前の時期ですが、糖度が高く酸味の少ないことで人気のBKシードレスとともにシャインマスカットが店頭に並ぶ9月上旬に買いに来ていただくのもおすすめなのだとか。

地元、山科の農家6軒による共同運営

山科区勧修寺一帯はもともと山林や竹林が広がっており、約50年前の開発によって、観光農園事業がスタートしました。勧修寺観光農園もその当時につくられ、芋掘りやいちご狩り、ブドウ狩りが楽しめる場所として、京都市民に親しまれてきました。現在は約5haの敷地内で、6軒の農家で形成する組合によって共同運営が行われています。

そんな同園の夏の主力商品であるブドウは、枝や実の細かな管理が品質を左右します。特に生命力が強い品種は、短期間でも管理を怠ると「枝が暴れる」、つまり枝から発生した腋芽(わきめ)が副梢へと成長し、日光を遮ることでさまざまな生育障害が生じます。
その半面、新たに植えて安定した品質の実がなるまでには長い年月を要し、その間に病気やカビ、劣化があれば更に時間がとられます。勧修寺観光農園でも、シャインマスカットをはじめるにあたっては「3年ぐらいは全然太らなかった」そうですが、我慢強く試行錯誤を続けて栽培に成功しました。

「まだ『シャインマスカット』が試作段階の時期(2006年に品種登録)に岡山まで見学に行って、試食したところ『これだ』と思いましたね。仕事柄たくさんのブドウを作って、味も見てきましたが、お金を出してでも食べたいと思ったのはこのときが初めてです。ガラス温室ではなく露地栽培で育てられるという点も決め手になりました」と当時を振り返ります。

止まったらあかん。ブドウづくりへの尽きない思い

露地栽培ができ、比較的暑さにも強いシャインマスカットですが、色の違いから不良を判別しにくいという特徴もあります。組合の仲間と情報を交換し、定期的に勉強会を開催するなど、高品質で安定的に育てる手法を一つひとつ積み重ねてきました。
同園がこうした品質への姿勢を強めるようになったのは、世代交代が進んだことも関係しています。「以前は生産者によってブドウの出来にバラつきがあって、クレームになることもありました。腕のある人が揃っていましたが、品質に対する考え方はなかなか一致しなかったんです。でも世代交代が進んで、現在は私たち40~50代が中心です。意識改革も進んで、仲間であっても『良くないものは良くない』と言い合える雰囲気がでてきましたね」と林さん。一枚岩になった組合員が、クオリティラインを共有できていることが、多くのリピーターを生む要因になっています。
こうした姿勢が評判を呼び、今年の夏も忙しくなりそうな同園ですが、林さんからは現状に満足している様子はうかがえません。「今はシャインマスカットが人気ですが、トレンドが変わればどうなるかわかりませんよね。幸いうちは栽培から販売までを一貫してできますから、新しい品種を試すなど、チャレンジしやすい環境があります。私は経営について明るいわけではないのですが、とにかく『止まったらあかん』ことだけは確かです。これからも、毎年楽しみにしてもらえるようなブドウを作り続けるために、できる限りのことをやっていきたいと思っています」。

多忙なブドウ栽培の合間を縫うように、市内の幼稚園やこども園を対象にした芋掘り体験を続けている勧修寺観光農園。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために中断しているブドウ狩りの再開準備も進めています。「街中から農地が減って、子どもたちが農業に触れる機会も減っていますから、ブドウ狩りもなるべく早く復活できるように頑張ります」。

●勧修寺観光農園のブドウ収穫カレンダー

林 利彦さん
JA京都市版GAP取得者
JA京都市 山科南部支部
農業大学を卒業後21歳で就農。祖父の後を継いで勧修寺観光農園組合長に。ブドウ栽培だけでなく、品質の統一や経営の透明化など、組合運営の改善にも尽力。

●勧修寺観光農園の直売所について
所在地:京都市山科区勧修寺南大日町204
電話:075-571-2580
営業時間:8時30分~17時 無くなり次第終了/ブドウシーズンは無休
駐車場:50台(無料)



●勧修寺観光農園のWebサイトはこちら

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