市内生産者の技とプライドの結晶を審査する。JA京都市の農産物品評会

学問の神様を祀る北野天満宮では、毎年夏になるとJA京都市が主催する「夏季農産物品評会」が開催されています。生産者自慢の農産物が数多く出品されるこの品評会を中心として、京都市内で開催されるさまざまな品評会の特徴や、これまで果たしてきた役割についてご紹介します。

京都市で農産物品評会が盛んな理由

生産者が腕によりをかけて育てた野菜や果物を審査する「農産物品評会」は、全国の生産地で行われていますが、JA京都市が管内とする京都市はその規模、回数ともに他地域よりも抜きんでています。
またその歴史も古く、昭和初期の頃から各地域で行われており、JA京都市が主催する品評会は、昭和23年の京都市農業協同組合の設立後、生産技術の向上並びに市内農産物のアピール、消費拡大を目的として開催するようになり、昭和37~38年頃には現在の形式に落ち着いたとされています。

現在は北野天満宮で開催される「夏季農産物品評会」、平安神宮で実施される「秋季農産物品評会」のほか、北区の大宮、伏見区の深草、右京区の太秦といったJA京都市の各支部単位で開催される品評会、さらに行政が主催する品評会もあり、地域単位で生産者が技術を競い、互いに高め合う貴重な場になっています。

品評会の形態は生産者が収穫した農産物の出来栄えを審査する「持寄品評会」が中心ですが、京都市では「立毛共進会(たちげきょうしんかい)」という栽培圃場で行う形式の品評会も盛んです。これは農産物を栽培する畑の整備や仕立て方、収穫量、病気への対策なども総合的に審査するという方式。京の伝統野菜やハウス栽培のトマト・キュウリ、さらにはタケノコや花までさまざまな品目で行われており、生産者はより高い評価を得るために、支柱1本の角度にもこだわるといいます。

農産物品評会はもともと学区の小学校を会場に開催されていました。時代の流れとともに開催場所を神社や区役所、JA京都市の各支店などに移しましたが、北区の大宮小学校では現在も大宮支部主催の品評会が開催されています。

市内生産者がこぞって出品するJA京都市の「夏季農産物品評会」

毎年夏に開催される「夏季農産物品評会」は、京都市内で開催される品評会の中でも特ににぎわいを見せる催しです。出品される野菜は約1,000点(多い年には約1,500点)。品目ごとに審査が行われ、優秀な農産物には京都府知事賞、京都市長賞などの賞が贈られます。

審査員は京都府農業改良普及センターや京都市役所の技術員など農産物の専門家が担当するほか、摂南大学の寺林敏氏(2020年より)が審査長を務めます。
さらに夏の品評会には「単品」に加えて、「詰め合わせ」という独特な出品規格が設けられています。これは2種類以上の野菜をカゴなどに詰め合わせて出品するもので、農産物の品質だけでなく、サイズの統一感やレイアウトなど、美しく詰め合わせる「出荷技術」も審査の対象になります。

出品した生産者からは「自分のが1番!と思って出品したが、他の農家さんの野菜と比べると負けたと感じた」や「品評会は生産者と消費者の距離を縮める機会になる。もっとたくさんの人に、京都の野菜の良さを知ってほしい」といった声が聞かれました。

審査基準にも京都市の農業の特徴が現れています。例えば京の伝統野菜である賀茂なすは、表面の色艶だけでなく「ガクの部分が大きく、三角形を保っているか」、ダイコンは「太く大きく、細根が真っすぐ伸びているか」、白菜は「身が大きく、締まりが良いか」といったポイントが審査の対象になります。市場では、産地からの輸送を考慮したコンパクトな形状や、消費者が使いやすいサイズであるかといった点が高く評価されるのに対して、伝統野菜をつくり続けてきた京都市では「品種の特性がしっかり守られていること」も重視されているのです。

審査を終えた野菜は、その場で販売されることが夏季農産物品評会の恒例になっています。市内各地の生産者が腕によりをかけた農産物は、百貨店の贈答品や料亭で取り扱われるハイレベルのものばかり。これらがこの日だけの特別価格で購入できるとあって、会場である北野天満宮には毎年多くの買い物客が訪れます。

農産物の形やサイズ、色みを揃えることはもちろん、裏・表、色の境目にまでこだわるなど、生産者にとって「栽培技術」「出荷技術」を追求する重要な場になっているJA京都市の品評会。また、JA京都市にとっても管内生産者と協働できる貴重な機会となっています。

生産者の競争意識の発露の場として

日本の農業の多くが地域ごとの共同・大量出荷を前提としているため、全国的に生産者には一定の規格を守ることが求められます。これは市場への流通を考慮すれば、効率的でメリットの多い仕組みといえますが、「規格を守る」ことが優先される環境では、「より高い品質を目指そう」という競争原理は働きにくくなります。
一方、京都市は都市としての構造上、大消費地と農地の距離が近いという特徴があります。市街地と農地が隣接している分、一つひとつの農地の面積は限られていますが、料理店や市民といった売り先が近くにたくさんあるため、生産者は自ら売り先を開拓し、自家で育てた農産物を販売してきました。そのため、各生産者は「よりおいしく、高い価値をもったものをつくりたい」という思いが強く、そうした競争原理が結果的に京都の農産物品質を向上させてきました。

「夏季農産物品評会」を含め、京都市内で農産物品評会が盛んに開催されている背景にも、こうした京都市の農業ならではの歴史や風土が強く関係しています。残念ながら、近年立て続けに発生している集中豪雨や、新型コロナウイルスの感染拡大といった影響から、品評会への出品数は年々減少しています。しかし、ひたむきに品質を追求する市内生産者が技術を競い、高め合う場を提供し、また伝統野菜の特性を後世に残す役割も果たす農産物品評会は、今後の京都市の農業を発展させるためにも途絶えさせることのできない農業文化なのです。

久世 務さん
JA京都市営農経済部 営農支援課にて営農相談アドバイザーを務める。京都市における農産物品評会の運営にも長年携わってきました。

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