京都市右京区嵯峨野で、トマトやイチゴ、ブルーベリーなどを栽培する中村農園。最先端の自動環境制御システムと、自然の力を融合させた独自のハウス栽培を実践しています。そんな農園を支えているのは、それぞれの得意分野を活かして活躍する家族の存在です。3世代がそれぞれに関わりながら形作っていく農業のあり方をご紹介します。
自然の力と緻密な環境制御が育む、中村農園のトマト
自然の力を知り、うまく取り入れることで農産物を生み出す。そんな農業という営みの奥深さを改めて教えてくれるのが、右京区嵯峨野でトマトのハウス栽培に取り組む中村農園です。
この日案内してもらったハウスは、軒高が一般のものより高い約3.5mに設計されています。これは上方へと茎を伸ばすトマトの生態に合わせたもので、天井から熱を逃がすこともできるため、夏期の高温緩和に有効な方法の1つなのだとか。
ハウス内の環境はパソコンによって自動制御されており、温度や湿度、光の量、さらには光合成に欠かせない二酸化炭素の濃度にいたるまで、緻密にモニタリングされています。その日、あるいは過去の気温や湿度といったデータをもとに、換気やミスト、暖房やカーテンの開閉などを細かく制御することで、トマトの生育に適した状態がキープされます。
栽培には「養液栽培」を採用。土の代わりに培地とする「ココピート」は、ヤシ殻から作られており、保水性と通気性に優れています。ここに生育に必要な水分と養分を溶かした液体を、チューブを通して与えることで、病害虫や連作障害のリスクを軽減し、収量の安定化や農作業の効率化を図っています。
また、ハウス内には受粉を担うマルハナバチだけでなく、カスミカメといった、トマトの葉茎を吸汁するコナジラミの「天敵」を放っています。それら益虫の住処(バンカープランツ)となるクレオメの栽培も含め、虫や花の働きもうまく取り込んでいるのです。
家族が関わり、力を出し合う
代表の中村尚司さんはもともとエンジニアとして会社勤めをした後、家業である農業を引き継ぎました。「言われるがままにやっても、農業は全く面白くない」と、自ら試行錯誤を重ねるようになり、数ある野菜の中で特に味の良さが問われ、「作り手の個性が出やすい」トマト栽培に着手しました。
露地栽培からはじめ、「味か、収量か」というジレンマに向き合う過程で、施設園芸に着目。「施設園芸指導士」の資格を取得するほど没頭し、現在実践する自動制御を採り入れたハウス農法にたどり着いたといいます。
そんな尚司さんとともに、中村農園をつくりあげてきたのが、家族の皆さんです。商品の梱包や直売所などを担当する妻の仁美さんはもちろん、三人の娘もそれぞれに農業に関わっています。パッケージや直売所のPOPなど、印象的なデザインは長女が担当しており、三女も時間をつくっては、農作業を手伝っています。
中でも次女の美里さんは、農園事業に深く関わっています。「結婚・出産を経て、どこで子育てをしたいかを考えた時、自分が生まれ育ち、畑が身近にあるこの場所を選んだんです」と、生家に戻って農業を手伝い、ブルーベリーの栽培や、収穫体験事業を担当。特に、清潔で過ごしやすいハウスでのイチゴ・ブルーベリー収穫体験は、小さな子供連れの家族客を中心に、大人気になっています。
さらに、夫のブライアンさんも農業に参加しています。結婚後、農業資材メーカーの農場研修に半年間参加し、自動制御の導入にあたっては、窓口としてオランダのコンサルタントから指導を受けるなど、尚司さんとともにハウス栽培のノウハウを構築してきました。
現在は大学で教鞭を執る傍ら、主にマネジメントを担当。「京都で農業をやってみて、自分が植物が好きなことに気付きました。科学的な面白さもあるし、何より光と酸素にあふれたこのハウスは、私にとって最高のオフィスなんです」と語ってくれました。
農業への思いが、人を惹きつける
最近では、ブライアン・美里夫妻の子どもたちも、イベントを時折手伝っており、中村農園には家族3世代が関わるようになりました。それぞれができるときに、できることをやる。そんな風通しの良い家族農業のあり方は、とても新鮮なものに映ります。
「家族だからこそ意見がぶつかることもありますし、良いことばかりじゃありません。父の年齢を考えれば、先のことも考えていかないと」と語る美里さんですが、その言葉の端々からは、家族で農業を営む日々を何よりも大切にしていることが伝わってきました。
尚司さんも、「最近はあちこち痛くて」とこぼしつつも、農業について語る姿は誰よりもいきいきとしています。最近は果樹への関心が強まっており、
「ニュージーランド独特の、収量重視のリンゴ栽培法(FOPS)を知るとびっくりしますよ」
「『できない』と言われている大玉スイカのポット栽培や、暑い京都でのりんご栽培に今チャレンジしています」
「トマトもまだまだ奥が深くて、勉強することがたくさん」と、
話は尽きません。
そんな農業への純粋な情熱や探求心に引き寄せられるように、今日もこの場所には多くの人たちが集まり、温かい交流が生まれています。
レシピ)
おすすめレシピは「やっぱりそのまま食べるのが一番」と美里さん。まずは鮮度の良いモノを、サラダやスライスでお試しください。
中村尚司さん
中村農園代表。最先端の環境制御ハウスでトマトやイチゴなどを栽培。大人気の「イチゴ収穫体験」や特製トマトジュースなどの加工品販売のほか、直売所併設のキッチンで料理イベントも開催。