京都市の農業の今昔、そして未来

150万人近い人口が暮らす京都市。寺社仏閣などの歴史遺産だけでなく、全国屈指のブランド力をもつ京野菜や独特の振り売り文化など、農業においても他都市に見られない独自性をもっています。 今回はそんな京都市の農業の特徴や、未来のためにできることを考えます。

恵まれた地形と気候、都としての歴史が育んだ京の農業。

東山・北山・西山の京都三山に囲まれた京都市。
市内を縦断するように桂川や鴨川が流れており、古くから氾濫を繰り返し、その過程で流域に肥沃な土壌をもたらしました。
更に夏は蒸し暑く、冬は底冷えするような寒暖差の激しい京都盆地の気候もあいまって、野菜の風味を格段なものにしています。

794年の平安遷都以降は、市中に日本最大の消費地を抱えることに。
多くの人とモノが集まるようになると、食糧の生産・供給機能も一気に発達し、海から離れた洛中(京都市中心部)では、野菜が食文化の中心的役割を果たしました。

特に宮中に献上する食材は当時の最高級品であり、京都の野菜生産者はその栽培技術の研鑽にいそしみ、代々受け継いできました。
更に全国から献上品として集められたさまざまな農産物は、京都の気候や風土に合わせて改良され、その過程で今日の京都の伝統野菜が生まれたといわれています。

生産地と消費地の距離の近さが、生産者の販売力に。

一口に京都市といってもその面積は827.8k㎡もあり、左京区の久多から伏見区の巨椋池まで南北の広い範囲をカバーしています。
地域によって気候や土質が異なることから、作物や栽培方法にも明確な違いがあります。
大まかに南北に分けてみてみると、JR京都駅より南の地域では、1戸あたりの農地面積が比較的大きく、単一の作物を数多く栽培して近くの市場に出荷するスタイルが主流です。
一方、市内中心部から山間部も含む北部は農地面積は比較的小さく、少量多品目栽培が主流。農家が自家で収穫した野菜を担いで売る行商を「振り売り」といいますが、古くから伝わる伝統的な振り売りは現在でも上賀茂や大宮、山科といった地域で盛んに行われています。

多品目を栽培する農園(京都市右京区)
単一の農作物を栽培する農園(京都市南区)
現在の振り売りは、軽トラックで行われている。(左) 無人・有人販売が盛んなエリアも。(右)

「日本の農業の縮図」といえるほど、地域によってさまざまなバリエーションが見られる京都市の農業ですが、消費地が近いために農家が独自に販路を開拓してきたこと、またその過程で競争が生まれ、結果として農産物の品質が高まったことは共通しています。
特に「うちの屋号が品質の証」と言わんばかりに、どこよりもおいしい野菜をつくるという自負は強く、試行錯誤を繰り返しながら産み出された独自の栽培方法は今日まで受け継がれています。

また、京都の中央卸売市場には独特の仕組みがあり、京都や滋賀といった近郊で採れた野菜だけを扱う売り場があります。
ここで行われるセリは一般的なやり方とは異なり、仲買人が現物を一つひとつ吟味して値段をつけるというもの。
そのためここで認められ、他家よりも高い値を付けられることは、京都の生産者にとっての大きな喜びとなっています。

品評会に出品された野菜の数々。
おいしいものを作りたい。京野菜は生産者が手塩にかけて育てています。

農業の明日を見据えて。

独自の生産と供給の仕組みを形成してきた京都の農業も、時代の変化の影響を色濃く受けています。
高齢化や社会情勢の変化によって地縁的なつながりが薄れ、更に情報化が進みつつある現代では、先祖の代から続いてきた販売先との関係が途切れることも珍しくありません。

また、売り先が京都市内に集中しすぎていることや、最大の強みである京野菜のブランド価値の適切な見直しなど、地域として解決すべき課題も残されています。
食品に求められる安全・品質基準も高まり続けており、JA京都市では「JA京都市版GAP」制度を考案。
現在では、京都市内の生協、スーパーマツモト、イオンモール京都五条、じねんと市場や直売所などで販売しています。

【JA京都市版GAPとは】
JA京都市が京都市と連携して基準を定めている「JA京都市版GAP」は、生産者が適切な生産工程で農業を行えるよう実践・管理するための制度です。
土づくりをはじめとする32項目の自己点検を行う生産者と、現地調査を行う専門の調査員、外部委員で構成する審査委員の3者により厳正に管理されています。
JA京都市 JA京都市版GAP制度について

また、近年では従来のやり方にとらわれず、さまざまな営農にチャレンジする市中の生産者も増えています。
今後も更なる環境の変化が予想される中で、1300年の歴史が育んできた京都ならではの農業を持続可能なものにするためには、農業に携わるあらゆる人たちの協力・試みが不可欠なのです。

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