「京やさい佐伯」に見る、生産者と消費者の幸せな距離

丹精込めてつくった野菜を、自宅の軒先で対面販売する。 そんなスタイルを京都の街中で100年以上続けてきた佐伯さん一家。 農薬や化学肥料を使わない有機農法を確立してきた佐伯昌和さんと息子の農生さんに、お話をうかがいました。

三里四方の旬を届ける、京やさい佐伯のこだわり。

佐伯昌和さんは、京都市中京区や右京区のほか、伏見区や亀岡市の農地で露地栽培の有機農業を手掛けています。
江戸末期から続く農家の5代目として生まれ、1978年に就農。「地球環境を守りたい」という思いから、除草剤や農薬、化学肥料などの使用を段階的に取りやめてきました。
時代に先駆けて導入した有機農業には、夏場は虫や病気の発生率が高まるというリスクもありますが、佐伯さんは日本に近代農法が導入される前の時代を知る先輩農家から知恵を授かるなど、味はもちろん、虫食いも抑える有機農法のノウハウを地道に積み上げてきました。

栽培に手のかかる野菜は自宅近くの畑で育てている(京都市中京区)
京都市中京区西ノ京が原産とされる京の伝統野菜「青味だいこん」は、手間暇をかけて種とりを行う。

佐伯さんが現在栽培しているのは、京野菜を含めた約70種。
「三里四方の旬(三里、つまり半径約12kmの生活圏の中で採れた旬のものを食べることが健康に良いという考え)」をモットーに、収穫した野菜は自宅で運営する「京やさい佐伯」で販売しています。
100年以上の歴史をもつ同店の最大の特徴は、軒先に商品を並べる対面式の販売スタイル。
「今日も暑いね」「最近畑はどう?」とお客様と店主が会話を楽しむ様子は、スーパーやコンビニではなかなか目にすることのない風景です。

京都の街並みにすっかり溶け込んでいる同店ですが、他府県からも多くのお客様が訪れるのだそう。

子育て中の母親や、健康・環境への関心が高い働き盛りの世代など、安心して食べられる旬の野菜を求めてやってくるお客様にとって、大きな楽しみになっているのが「旬刊はたけ情報」です。
同紙は平成4年から毎月3回の発行を続けているオリジナルの壁新聞で、店頭に並ぶ旬の野菜の情報だけでなく、そのときどきの畑の様子や、農作業の内容も書かれています。
昌和さんが手書きで綴る「旬刊はたけ情報」の文面は、「野菜は自然の恵みと、汗を流す生産者によってつくられている」という当たり前の事実を、今一度気付かせてくれます。

2022年6月2日の「旬刊はたけ情報」

京都市の農業を次世代に。

昌和さんの息子であり、佐伯家6代目にあたる農生(たかお)さんも、共に営農しています。
父の背中を見て育った農生さんにとって、有機農法は当たり前のものだったそうですが、農業系の大学を卒業して実際に作業を経験してみると「これだけ苦労するのか」というほど、手間がかかることに驚いたといいます。

それでも「ハウスなどを使用した、一般的な大規模農園だったら継ごうとは思わなかった」と、有機農法に意義を見出す農生さん。
父とともに有機農法を追求する一方で、即売会やマルシェへの出展といった新たな取り組みにもチャレンジしており、即売会で出会ったお客様が「京やさい佐伯」に来てくれることも増えてきたそうです。
また、農生さんの奥様もインターネットを活用して畑や店の様子を知らせるなど、ご夫婦で情報発信にも積極的に取り組んでいます。

洛北農業クラブといった若手農家の集まりに参加すると、話題はもっぱら「農地をいかに次世代に残すか。残したいと思っているが、残せるか」だという農生さん。
増えゆく農地の住宅地への転用や、相続の難しさといった課題がある中でも、京都市の農業を次世代に引き継ぐためにはどうすれば良いかを日々考え続けています。

京都市内に生産地がある意味

市街地にある佐伯さんの農地のそばは、毎日多くの人が行き交います。
近隣には小学校もあり、通りがかった子どもたちから「この野菜なに?」「前よりすごく大きくなった!」と声をかけられることも多いそう。
「お米や野菜がどうできているのかわからない子どもが増える中で、市民の生活の場で畑をやることには価値があると考えています」と農生さん。
所属するJA京都市朱雀支部でも10年来、小学校の農業体験に協力しているなど、食農教育にも意欲的です。
昌和さんも、子どもをはじめ多くの人の目に触れる都市農業には「ある種の規範が求められる」と考えています。
「都市部の農家には、農業のあるべき姿を地域に示す役割がある。私にとってはそれが人と環境に優しい有機農法であり、農業の一番の理想形なんです」と、自身の貫く信念について語ってくれました。

京文化と農業〜北野天満宮のずいき祭〜

佐伯さん一家のお祭は北野天満宮で毎年10月1日から5日にかけて行われる「ずいき祭」。
祭には代々かかわり、昌和さんは昨年までずいき神輿保存会の会長を務め、農生さんも子どもの頃から「ずいき神輿」の準備を手伝い、巡行にも参加してきました。
ずいき神輿に飾り付けられる野菜はほぼ1年がかりで栽培。飾りつけも9月ほぼ毎日作業が続きます。

北野天満宮のずいき祭に使用する「ずいき」も栽培している。

ずいき祭は地元の小学校では巡行当日は休むことも認められているほど、地域との結びつきが強い祭礼。
親子で運営を支える二人からは、農業だけにとどまらず、祭礼や伝統行事といった地域文化の担い手としての生産者の姿も見えてきました。

 

京やさい佐伯/佐伯 昌和さん
所在地:京都市上京区御前通仁和寺街道下ル西上之町254-4/京やさい佐伯さんの地図をGoogle Mapで見る
TEL:075-463-6627
営業時間:午前9時~午後6時
店休日:日、祝

●主に生産している農産物
・・・かぶ(小~中)、こまつな、サニーレタス、スナックエンドウ、そら豆、たけのこ、ほうれんそう、リーフレタス
・・・えだまめ、かぼちゃ、きゅうり、三度豆、鹿ケ谷かぼちゃ、ジャガイモ、鷹峯とうがらし、玉ねぎ、とうもろこし、トマト、なす、伏見とうがらし、水なす、京・白きゅうり
・・・かぶ(小~中)、きくな、こまつな、さつまいも、サニーレタス、三度豆、鷹峯とうがらし、長だいこん、なす、ほうれんそう、リーフレタス
・・・青味だいこん、辛味だいこん、金時にんじん、九条太ねぎ、さといも、聖護院かぶ、聖護院だいこん、西洋にんじん、長だいこん、ほうれんそう、みず菜、壬生菜

TOP
タイトルとURLをコピーしました