農業×教育。京都市の小学校が実施する農作業体験をレポート

土や虫、植物に触れながら、農産物を育てる。京都市立上鳥羽小学校では、現代ではなかなか経験できないこうした体験を教育の中に積極的に取り組んでいます。地域の生産者と触れ合いながら、自ら農産物を育て、食べることの尊さを学ぶ農作業体験の現場を取材しました。

京都市立上鳥羽小学校の農作業体験とは

京都市南区にある上鳥羽小学校は、校区内で京野菜の栽培が盛んなことから、平成21年から全学年の児童を対象に農作業体験を行っています。
校内には20㎡の農地とともに農業用水に利用する雨水タンクや地下水をくみ上げる設備も整備されており、地元生産者の指導・協力の下、京野菜やもち米などを栽培しています。
継続的に取り組んできたことで、同校の農作業体験は校区内ではよく知られており、入学前から楽しみにしている保護者も多いといいます。

農作業体験は、1~2年生は「生活科」、3~6年生は「総合的な学習」の時間を割り当てており、聖護院大根や九条ねぎ、壬生菜、金時にんじんに加えて、もち米(かぐらもち)を栽培しています。
取材に伺った6月初旬は、5年生によるもち米の田植えが行われていました。慣れない農作業や地域の生産者との触れ合いを通して、米や野菜がどのようにできるのかを学んでいます。
あるものを活かす昔ながらの知恵や、農作物をつくるための苦労を知ることは、現代の子どもたちにとっては貴重な経験です。

【各学年の農業体験プログラム】
1年生(72名)聖護院大根
2年生(56名)サツマイモ
3年生(68名)九条ねぎ
4年生(65名)壬生菜・水菜
5年生(57名)もち米
6年生(60名)金時にんじん

苗の持ち方や植え方を教わる小学生たち
「村田さん、これでいいですか?」と慎重に田植えをしていきます。
JA京都市上鳥羽支店の職員も子どもたちの農作業体験を応援しています。

「ねぎ仙人」村田さんの農作業体験指導

この日、田植えの指導にあたっていたのは、上鳥羽の生産者である村田治夫さんです。
25歳の頃から農業を続けてきた村田さんは、平成15年から地域の生産者として上鳥羽小学校の農作業体験指導にあたっており、現在は同校の他にも市内3校で同様の活動に取り組んでいます。

上鳥羽小学校ではこの日の米づくりの他、九条ねぎの栽培指導も担当。
毎年、学校との打ち合わせから耕うん、田植え、中寄せ、収穫と年間を通して学校を訪れ、収穫後にもねぎ焼きづくりや餅つきの指導も行っています。
4つの学校を担当しているため「子どもたちが植える苗を準備するのも一苦労」という村田さんですが、子どもたちとの交流は大きな生きがいにもなっているそう。
コロナ禍で修学旅行や運動会を経験できなかった子どもたちにとって、村田さんが指導するねぎづくりは、小学校生活の大切な思い出になっているといいます。

上鳥羽小学校での発表会では村田さんをモチーフにした「ねぎ仙人」が登場する劇を上映したり、村田さんへの感謝の気持ちを表現した歌の披露もあったのだとか。
「歌を聞いたときは涙がボロボロ出てね。ずっと続けられるように私も健康でいようと思います」と話してくれました。

また、村田さんは農作業体験の指導だけでなく、野菜や地域の歴史、植物や食べ物を大切にする道徳のお話や京野菜の歴史など、さまざまな講話を行っています。
授業ではなかなか聞けない話に子どもたちは熱心に耳を傾け、中には村田さんとの交流をきっかけに、将来農業をやりたいという児童もいるのだとか。
「皆に農業をしてほしいわけではないのですが、体験や講話を通して、子どもたちが生きるための目標とか、そのきっかけを見つけてくれたら、こんなにうれしいことはないね」と、目を細めながら語ってくれました。

農作業体験に精力的に取り組む一方で、「市内の若い生産者にもぜひ子どもたちに関わってほしい」と村田さん。

未来の「農業サポーター」を育てる

この日参加した子どもたちに感想を聞いてみると「最初は泥に入るのが気持ち悪かったけど、苗を植えるうちに『元気に育ってほしい』という思いの方が強くなった」「田植えなんてしたことなかったから、楽しまないともったいないと思った」「収穫が楽しみ、早く食べたい」と、それぞれの気づきや感動を口にしてくれました。
ともに参加した教員も「私も田んぼに入るのは初めてです。バケツを使って稲を育てる事例はありますが、外から眺めて観察するのと、実際に腰をかがめて苗を植えるのとでは、思い入れが違うと思います」と、農作業体験に大きな意義を感じています。

こうした小学生の農作業体験は、国の推進事業になっており、京都府内の各小学校でも実施されています。
多くの小学校が、特定の学年で農作業体験を実施する中で、上鳥羽小学校は全学年に展開している点が特徴。
地域の生産者と教育機関の強い結び付きから生まれたこうした取り組みは、将来地域の農業の未来を支え、応援してくれる「農業サポーター」を育成することにもつながるはずです。

村田治夫さん JA京都市上鳥羽支部

伝統的な栽培法を取り入れた良質な九条ねぎを長年にわたって栽培。現在は上鳥羽小学校をはじめ市内4校で農作業体験指導にあたるなど、地域貢献にも尽力。

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