農業は化学だ。森田さんに聞く微生物と有機物、土のお話し。

限りある資源を有効活用・リサイクルしながら持続可能な社会を実現する循環型社会。京都市北部の上賀茂を中心に活動する野菜生産者森田良彦さんは、野菜の生産・消費のサイクルがうまくつながる循環型農業を実践してきました。

有機物と微生物の力を借りる、森田さんの土づくり

賀茂なすやすぐきの産地として知られる上賀茂を拠点に、野菜を生産する森田良彦さん。1992(平成4)年に「京・有機の会」を立ち上げ、リーダーとして有機栽培に取り組むなど、近年のSDGs※1にも通じる「循環型農業」のパイオニアともいえる存在です。

「生産から消費まで全ての要素が循環するのが本来の農業」と語る森田さんが、何より重視するのが「土づくり」です。化学肥料や農薬に極力頼ることなく、形が悪いなどの理由で廃棄するトマトやなすといった果菜類や収穫後の枝葉などを細かく刻み、微生物の力で分解する土壌改良技術を開発してきました。


※1:循環型社会は、持続可能な生産消費形態の確保を目指したSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や、多種多様な生き物のつながりや多様性の保護をうたった目標15「陸の豊かさも守ろう」との親和性が高い。

赤く見えるのはトマト。果菜類や収穫が終わった野菜の枝葉などの収穫残渣(有機物)にパウダー状の微生物を加え、表面積を大きくすることで発酵・分解を促し、1年から2年をかけて堆肥をつくる。

「簡単に言うと、有機物と微生物の力を借りて土を良くするという仕組みやね。」畑の片隅に積んでいた収穫残渣が、知らない間に微生物に分解されて、良質な土になっていることが偶然発見されたのがきっかけで始めました。

「有機農法は土づくりから」。土の中の状態を改善することが全ての前提になると考えており、森田さんが改良を加えた土はフカフカと柔らか。

1992(平成4)年頃から土壌改良に取り組み、現在は立命館大学の久保幹教授らによって開発された「SOFIX※2」の年に1回の土壌分析による土壌認定も受けるなど、経験や勘に頼る従来型の有機農業とは異なる、科学的な根拠に基づいた農業が森田さんのモットーです。
「例えば、昔はし尿を発酵させて肥料にしていたけど、それだと酸性が強すぎるから石灰を入れて中和した。でも石灰を入れると土が硬くなるから、今度はアルカリ性の炭なんかを入れて土の物理性(保水力・通気性など)を還元する。こういう物理性の仕組みや光合成のメカニズム、嫌気性と好気性、透水性と保水性といった基礎知識がないと、農薬頼りでない有機栽培はできない」と、農業における科学的な観点の重要さを語ります。


※2:土壌の化学性(肥料成分、緩衝作用など)や物理性(保水力・通気性など)に加えて、生物性(有機物の分解、耐病害虫など)を加えた分析によって土壌の肥沃度を評価する土壌肥沃度指標


土壌改良効果のあるそば殻を蒸し焼きにした炭を使って土壌のPHを調整。他にも、同様の効果のある抽出後のコーヒー豆を使用するなど、土壌改良に終わりはない。
無農薬で育てる森田さんのトマトは色艶が良く、酸味、甘味もしっかり。生命力の強さを感じさせる。

病気を診断する医者のように、土を知れば植物の病気もわかる

子どもの頃から家業の農業を手伝ってきた森田さん。「友達と野球をしていても、釣りをしていても、親から『そんなことやるなら畑を手伝え』と言われてね。なるべくしんどいことはしたくないから、もっと良い方法はないのかと色々考えるようになりました」。

加工した竹材を使用し、雨に濡れないようビニールハウスをつくるなど、当時から合理的な思考を発揮。その後も電線を通す配管を使ったハウスや、農作業で土に汚れない水耕栽培をはじめるなど、アイデアを生かしながら農業に取り組む中で、有機栽培に出合います。

岩倉につくりあげた森田さんの畑。水のくみ上げや農機具小屋の照明に使う電気の一部分は、太陽光パネルを使って自家発電している。

「初めの頃は虫が大発生して作物が全滅したこともあり、辞めようと思ったこともあります。でもよく考えれば病気になった人間が医者に診断してもらうように、野菜も虫がついたり病気になる原因があるはず。土を勉強すればその原因がわかると考えました」。その後は独学で知識を深め、また全国から科学者が集まる勉強会への参加などを通して学んだ知識をもとに、適切な農薬の使用についての情報を地域の生産者に積極的に情報を共有していきました。

「有機栽培は『勇気(ゆうき)』がなければできない、無農薬は『脳(のう)』がなければできない」。常に勉強を続けることの大切さを説く森田さん。
ハウスの虫対策には「トリガーテープ」や農業用捕虫器を使用。LEDライトに吸い寄せられた虫を黄色のテープで捕獲。

京都市の農業は都市型農業にシフトするべき

土壌改良の研究は現在も継続しており、「乳酸菌ラクトヒロックス」「カルスNCR」「フルボ鉄」などさまざまな微生物を試し、効果の検証にも余念がありません。
これからやってみたいことがたくさんあるという森田さん。「本当に農業を楽しんでおられますね」と水を向けると、「楽しくしないと嫌になるからね。だから今は試験管で希少植物が培養できないかも考えていて・・・」と、新しいアイデアが口をついて出ます。

研究熱心でアイデアの尽きない森田さん。「やりたいことはいくらでもあるから、一緒にやってくれる若い人がいてくれたら」。

生産者でありながら研究者顔負けの探求心とアイデアを発揮し、75歳になられた現在も前を向き続ける森田さんに、今後の京都市の農業のあり方についてもうかがってみました。
「なんといっても、生産者が楽しく農業を続けられるようにすることが先決。高齢化が進んで耕作放棄が進んだり、山が荒れて食べるものがないから京都市内の農地にまで猪が出たりと害獣問題も多いけど、地域や消費者と協力・交流しながら農業ができる生産者がもっとでてこないと。
あと、今後は都市型農業にシフトして災害時の緊急避難場所、子どもの教育の場、CO2削減につながる地産地消などに注力していくことも大切やね。都心でたくさんの人から注目されるようになれば、必要以上の農薬を使うことも減るだろうし」と語ってくれました。

上賀茂で運営する直売店・おいでやすには自家栽培の野菜や、オリジナル開発のドライすぐきが並ぶ。
右はオリジナル開発のドライすぐき。京漬物・すぐき漬けを袋詰めする際に目方合わせで廃棄していたものをアップサイクル、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」にも貢献している。

森田良彦さん
京都市北区上賀茂の生産者一家に生まれ、学生時代から農業に従事。いち早く有機農業に取り組み、循環型農業を実践する。また京野菜マイスターの肩書をもち、直売店「おいでやす」ではオリジナル開発品も販売するなど、幅広く活動。

森田農園 ホーム | 京都上賀茂 森田農園 (kyotomoritanouen.com)
ECサイト おいでやす森田農園 (moritanouen.base.ec)

●主に生産している農産物
春・・・ほうれん草、菜の花、大根、いちご、キャベツ、スナップえんどう、新玉ねぎ
夏・・・賀茂なす、万願寺唐辛子、伏見唐辛子、山科なす、トマト、きゅうり
冬・・・聖護院大根、聖護院かぶ、水菜、壬生菜、金時人参、大根、かぶ、白菜、キャベツ

直売所 おいでやす
京都市北区上賀茂池端町39-1/京都市バス4系統深泥池バス停前
TEL:075-712-4889 FAX:075-791-5986
営業時間:午前10時~午後6時
店休日:不定休

TOP
タイトルとURLをコピーしました