生産者と触れ合う「街中農業体験」 。深草から広がる農業×都市の新しい関係。

京都市伏見区深草で少量多品種の農業に取り組む京都風緑の杉井 正治さん。ビジネスマインドをもった生産者であり、深草の竹林問題にも深く関わるなど多彩な顔をもつ杉井さんは、独自の農業体験も展開しています。生産者と消費者、学生や企業など、さまざまな人たちがフラットにつながる、杉井さん流の農業体験について取材しました。

消費者と直接触れ合う杉井さんスタイル

タケノコに金柑、九条ねぎにレモン。京都市伏見区深草の生産者、杉井 正治さんは年間通して約70種類もの農産物を生産しています。杉井さんの農地はJR「稲荷」駅や京阪「龍谷大前深草」駅から徒歩圏内、すぐ近くに住宅街が広がる場所にあります。敷地は稲荷山の傾斜地にあり、約1,000坪と限られていますが「そのスペースに合ったものを育てる」をモットーに、土地のポテンシャルを最大限に活した少量多品種の農法を実践しています。

杉井さんによると、京都風緑の土地は地殻変動前は波打ち際にあったため、土壌にミネラルが豊富に含まれているそうです。また、敷地の中でも日当たりや水はけなどが異なり、作物ごとに適したスペースで栽培することで、品質がより高まるといいます。

もう一つの特徴が、野菜の販売方法です。これまで商店街のマルシェに出店したり、通信販売を手掛けたこともあったそうですが、「梱包や袋詰めを考えたら2日がかりになる」というデメリットも。「儲かる農業」を追求するうちにたどりついたのが、一人ひとりの顧客に直接販売する現在のスタイルです。
常連さんや口コミなどでつながった顧客は杉井さんがLINEでその日のおすすめ野菜を発信。購入を希望する顧客が農地を直接訪れ、収穫した野菜を量り売りしています。

更に希望する人は杉井さんと一緒に畑に入って、その場で収穫してもらうこともできます。杉井さんに教わりながら食べごろの農産物を選んでもらったり、味やおすすめの食べ方を聞いたり。持ち帰り用の袋もお客さんが持参し、サイズが小さい野菜はおまけすることもあります。「昔ながらのやり方ですけど、案外お客さんにも楽しんでもらっています」と、軒先での対面販売と農業体験が合わさったような販売スタイルを実践しています。

ダイコンを買いに来たお客さんに「これはくらまダイコンっていうんやけど、一度育ててみたら甘みがあっておいしくてね。それからうちでダイコンをつくる時は、くらまダイコンにしてます」と杉井さん。

「ストーリー」のある農業体験

個人への販売のほか、名のある料亭やホテルにも農産物を卸している杉井さんですが、生産者としてだけでなく、京都市内の竹林保全の第一人者としてもよく知られています。「深草で放置された竹林が問題になっていて、市の取り組みで生産者やボランティアで整備事業をはじめたのがきっかけです。そのうちに当時の区長に勧められてNPO法人までつくって、あれこれ忙しくしてました」と当時を振り返ります。

そのとき立ち上げた法人が発展し、市民農園「風緑」として貸農園事業をスタート。2年前に自身の農業を本格化してからは市民農園の運営から手を放していますが、新たに(株)ビオスタイルが手掛ける「GOOD NATURE STATION」と提携して農業体験アクティビティをはじめたほか、京都大学や龍谷大学の学生の体験・見学も受け入れています。

「農業体験は世界中で盛んになっていて、ハワイやアメリカ本土なんかではうまく収益を上げている例もあります。京都もいつまでも寺社仏閣頼りではなく、農業をベースにした体験型の観光が広がっても良いと考えています」(杉井さん)。
農業体験の魅力はその日の食べごろを楽しめること。Link編集室も金柑や水菜の収穫を体験。収穫したての瑞々しさに旬に味わう意義を再認識しました。

「自分の体質に合わない」と農薬を使わず、また間伐した竹をチップ化した肥料や、食べ残しを原料とするたい肥の使用など、循環型農業を実践する杉井さんは、農業体験でもそのノウハウを惜しみなく伝えています。
また体験中には杉井さんからさまざまな話が聞けることも楽しみの一つ。「ブルーベリーがスズランのように下向きに花を咲かせるのは、雨が入らず、受粉もしやすいから。受粉するとすぐに上を向くのは、お日様を受けて栄養をつくりたいから。ブルーベリーはよく考えてる、偉いわ(笑)」。こうした、生産者だからこそ語れる「ストーリー」の数々が、農業体験に深みを与えてくれます。

京都市内の保育園と提携し、園児の食べ残しを加工した肥料を使用。「そこの園児がここに来て、レモンを収穫して食べてもらっています」。モノだけでなく、人も含めた循環型農業を実践しています。

農地がコミュニティーに

近年では、竹の生育土壌を利用してレモンを育てることに成功。香りが優しく、まろやかな味が特徴の「伏見レモン」という愛称で、近隣の飲食店を中心に流通するようになりました。「伏見レモンサワーは固定客がついて、収穫した分は全てなくなります。今は年間1tの生産を目標にしています」。また、長く取り組んできた竹林管理や、おいしいタケノコをつくるためのノウハウも「自分だけのものにはしたくない」と、後継者への指導を行っています。

「竹のかわりにレモンを育てたり、自分の畑で直接販売することは、今の時代に合わせて考えるうちにやるようになったこと。30年後には自動車が空を飛んでるかもしれないし、世の中はもっと変わってるはず。農業もそれに合わせて、どんどん変えていけばいいんです」。

常に旺盛な好奇心とオープンマインドを発揮し、新しいことに取り組む杉井さん。その人柄や姿勢に引き寄せられるように、地域の消費者や飲食店、企業、学生など、さまざまな人たちが集まり、交流が生まれ続けています。

杉井 正治さん
JA京都市 深草支部

NPO法人「竹と緑」を立ち上げ、竹林整備や環境保護に尽力し市民農園事業も展開。
現在は京都風緑にてレモンをはじめ、多品目・高品質な農業に取り組んでいます。

●栽培品目(PDF)を見る
●杉井さんの農場(京都風緑)
〒612-0812 京都府京都市伏見区深草坊山町41-10


●GOOD NATURE STATIONのWebサイト
みんなで農活! GOOD NATURE FARM
京都風緑さんでの農業体験はGOOD NATURE STATIONのWebサイトからお申込みいただけます。

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