大枝の柿はなぜおいしいのか。生産者に聞く知られざる歴史とこだわり

果肉がトロトロに熟すまで待っても、しゃりっとした歯ごたえを残したままでも良し。秋の恵みの代表格である柿の食べ方に、こだわりをもつ人は多いのではないでしょうか。今回は京都市随一の柿の産地である大枝の松木さんを訪ね、地域における栽培の歴史や、おいしさの秘訣についてうかがいました。

大枝にブランド柿ができるまで

和歌山や奈良など、関西には柿の一大産地が集積していますが、京都市内にも柿の産地が点在しています。特に西京区大枝でつくられる「大枝の柿」は大ぶりで甘みが強く、筍とともに地域の特産品になっています。
「もともと京都では仲買人が奈良から『江戸柿』を仕入れ、『室』という部屋で渋を抜いたものを『代白柿』として食べてきました」と教えてくれたのは、大枝の柿生産者、松木照男さんです。

松木さんによれば、大枝の柿づくりが始まったのは昭和のはじめ頃。「ここはもともと米づくりが難しい土地で、山でとった薪を売ったり、出稼ぎで生活している人が多かった地域なんですが、昭和のはじめに国のパイロット事業で柿や桃、すもも、栗が栽培されるようになりました」。

病気の流行で栗栽培が大打撃を受けるなど、紆余曲折を経ながらも、地域の生産者によって継承されていった大枝の農業。その努力が実を結び、戦後になると柿のおいしさが知られるようになり、栽培規模は昭和20~30年頃に最盛期を迎えたといいます。

現在も30~40軒の生産者が柿栽培を続けています。品種は岐阜県でつくられた富有柿と、上述の代白柿が中心で、毎年10月下旬になると府道10号(大山崎-大枝線)沿いの通称「柿街道」に生産者がそれぞれに直売所を出し、自慢の柿を販売。選りすぐりの秋の恵みを求めて、市内・外から多くの人が足を運びます。

この道一筋55年。松木さんの柿づくり

松木さんの柿づくりのキャリアは55年に及びます。現在は富有柿や代白柿に加えて、早生品種で濃厚な色・甘みが特徴の伊豆柿を含む約600本の柿を栽培しています。

直売所を運営しながら、主に市場向けに柿を栽培・出荷してきた松木さん。毎年10月下旬から12月の中旬頃まで安定的に出荷できる供給力の高さや、単価が見込める2L以上のサイズへのこだわりから、目利き揃いの仲買人に高く評価されており、その年の「一番競り」に選ばれることも。

また、高校の農業専門学科を卒業し、実習助手として農業教育に携わるなど農法への造詣も深い松木さん。これまでさまざまな栽培技術を導入してきました。

「剥皮」という農法もその一つです。これは、実のなった枝の基部の皮を、刃物ではぎとるという技術。実は根からくる養分や水分を受取りますが、剥皮をすることで葉の中で生成された養分が根などに逃げださず、実が大きく育ちます。「剥皮は柿の木を傷めるという人もいますが、冬ではなく夏の間に剥皮することで、癒合組織(植物の切口を塞ぐ組織)が働きやすくなるから大丈夫なんです」。

また、柿は地下水の多い土壌で育てると大きく育つ反面、味が抜けやすくなりますが、松木さんの圃場は台地にあり、地下水はほとんど流れていないそう。「その分水やりは大変ですが、柿には甘味が残るんです」と教えてくれました。

分散しておらず、一か所に集約されている点も松木さんの圃場の特徴。柿の味にばらつきが出にくく、市場関係者からも高評価。

よりおいしく、より甘く。生産者の意識と最大の努力

「柿は畑、もっといえば木によっても味に違いが出ます」という松木さんは、これまでさまざまな産地でつくられた柿を食べ比べてきました。「他府県のものも試したけど、味の良さ、強さという意味ではやっぱり大枝の柿が良いと思いますな」。

松木さんの圃場のように、大枝の粘土質をもつ土壌は柿の肉質を柔らかくし、苦みを抑え、クセのない甘味を出します。「私の柿を初めて口にした人はだいたい驚きます」と笑います。

歴史的に見ても、大枝では少なくとも50年以上前から、地域の農家が規格に基づいて選別し、共同で販売する「共同選果」ではなく、個々の生産者が選果を行ってきました。他を頼ることなく、自らの工夫と努力でクオリティを高める姿勢は、大枝のみならず京都の農業に通底する特徴であり、またそうした姿勢こそが競争意識を生み、結果的に農産物の品質を高めてきました。

「若い頃は夕方まで収穫して夜の11時に市場に出して、翌朝6時には畑に出ていましたが、今は無理ですな」という松木さんですが、剪定を行って柿の樹高を下げる、樹木の間隔を見直すなど、「どうすれば品質の良い柿を作り続けられるか」を考え続ける姿勢は、今も若い頃と変わりません。
昨日より今日、今日より明日。常に品質向上を目指し続ける姿勢こそが、「大枝の柿」を育てる最大の力になるのです。

松木 照男さん
JA京都市 大枝支部

大枝西長町を拠点に昭和44年から農業を続け、柿と筍、なすといった地域の名産品の栽培に尽力。現在はぶどうや桃、スモモ、各種野菜など多品目を栽培。とれたてを販売する直売所は奥さまと娘さんが切り盛りしています。

●松木さんの農園「千安農園」

●主に生産している農産物
春〜夏…たけのこ、春キャベツ、ほうれん草、スナップエンドウ、えんど豆、玉ねぎ・じゃがいも、実さんしょ、トマト、きゅうり、なす、とうがらし、ピーマン、枝豆、ゴーヤ、とうもろこし、かぼちゃ、マクワ、桃、プラム、梨

秋〜冬…柿(富有柿・伊豆柿・代白柿)、いちじく、ぶどう、大根、白菜、ねぎ、キャベツ、ほうれん草、白かぶ、赤かぶ、人参、金時人参、ブロッコリー、米

●千安農園直売所
京都市西京区大枝西新林町6丁目2-7
TEL:075-331-5948
営業時間:午前9時30分~午後3時(季節によって変更あり/4月から12月まで)
店休日:日曜日
※4月・11月は休みなし
※5月・6月・9月・10月は不定休


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