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見慣れた田畑に見つけた 新しい生き方、新しい農業

京都市松尾地区の山口さんは、パティシエから農業生産者へと転身し、プロの料理人をうならせるまでに品質を高めてきました。人生の大きな転機となった就農のいきさつや、農業に対する思いについてうかがいました。

疲れた心身を癒す故郷の農地

「ここの野菜はやばい」。味に厳しいプロの料理人から高く評される生産者が、京都市松尾地区で農業を営む山口泰さんです。春の筍、夏の茄子を中心として、水稲やブロッコリーも生産。美しく整えられたほ場が、野菜作りに対する真摯な姿勢を物語ります。

伐採した樹木の皮から作る「バーク堆肥」を使用して土壌改良を行うほか、筍畑にも有機肥料を導入するなど、品質を高めるためのノウハウを多数蓄積している山口さん。2023年夏季と秋季にはJA京都市主催の農産物品評会で特別賞を受賞したこともありますが、農業をはじめたのは今から約9年前のこと。それまではショコラティエやケーキ職人として活躍していました。

東京の有名店でキャリアを積み重ねる日々はとても充実したものでしたが、深夜に及ぶ激務の中で体調を崩し、1か月の入院生活を余儀なくされます。10年間の疲労が蓄積した身体を休めるために生まれ育った京都に戻り、リハビリを兼ねて農業を営む父母の田畑を手伝うように。朝起きて、陽を浴びながら汗を流し、夕方になれば仕事は終わり。そんな「当たり前」の日常を取り戻したことで心身ともに回復すると農業への関心が高まり、心機一転、農業生産者への転身を決意しました。

「天気だけはどうにもなりませんが、それは皆同じですから諦めもつくんです」と笑顔を見せます。

基礎的な理論を学び、実践を重ねる

「種のまき方も知らない状態」からのスタートを切った山口さんは、まず農業の基礎を正しく理解すべく、週末を利用して農業学校に1年間通いました。土中の微生物の働きから有機栽培のノウハウに至るまで、座学を通して農業の基礎を学習。幅広い知識や理論を理解した上で、さまざまな実践を重ねていきました。「もともと職人気質で、どうすればもっとよくなるのかを考えて、試していくことが好きなんです」と山口さん。試行錯誤を重ねてよりおいしいものをつくるという点においては、農業とパティシエには共通する面があるといえます。

父母や周囲の生産者からもアドバイスを得ながら品質を追求していく一方で、「できたものをいかに売るかを考えることも、つくることと同じぐらい重要であることに気付きました」と山口さん。市場出荷だけでなく、小売りや独自の卸売りルートなど、営農の規模や形態に適した販路を見つけることが、農業を続けるうえでは欠かせないといいます。

直売所をメインに、飲食店向けの卸販売も徐々に拡大。また、地域の保育園向けにも販売するなど、独自の販路を確立しています。

自身が収穫した農産物は、ほ場近くで父母が営む直売所で販売するほか、市場にも出荷。量より品質を追求することで、より高い単価がつくようになってきたのだとか。
また、現在は飲食向けの販売にも注力しており、紹介を通して徐々に売り先が広がってきました。「味にこだわる料理人の方ほど、良い食材を確保することに懸命で、気に入ってもらえれば『わずかな量でもいいから送ってほしい』と頼まれることもあるんです」と山口さん。一般の消費者、プロの料理人を問わず『ここの野菜は本当においしい』といわれることが、何よりのモチベーションにつながっています。

百人いれば百通りのやり方 農業の奥深さに触れて

山口さんが農業を営む地域は、近年子育て世帯を中心に住宅地として人気を集めています。ほ場の周辺もぐるりと住宅地が囲んでおり、学校帰りの子どもたちが畑について質問をしてきたり、直売所に多くの子連れ客が買い物に来たりと、地域住民との接点が多く、「周りから見られているという意識が、農業にプラスに働いていると思います」。

一方で、農地の住宅地転用がどんどん進んでおり、地区の生産者の数は減少する一方。その分、山口さんはJA京都市関連の勉強会などを通して市内各地区の若手生産者と知り合い、交流や情報交換を行っています。

「皆さんとてもオープンで、新しい肥料や機械を試した際はその感想を教えてくれるなど、互いに助け合う雰囲気がありますね。同時に勉強熱心な方ばかり。キャリア的には私が一番浅いので、何とか先輩たちに追い付けるようにしたいですね」と抱負を口にします。

現在は徐々に農地を拡大させており、質と量の両方を追求する日々。市内農業の担い手として、多くの期待を集めます。「ここまで続けてきて色々な発見がありましたが、農業は本当に奥が深く、勉強することがたくさんあります。百人いれば百通りのやり方があるといわれますから、これから京都で農業を始めたいという人も、ぜひ自分なりのやり方を確立させてほしいと思います。私たちも押し付けにならないように気を付けつつ、全力でサポートしていくつもりです」。

生産者おすすめレシピ【白茄子のステーキ】

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山口 泰さん
松尾地区で筍、茄子、ブロッコリー、水稲などを栽培。10年間のパティシエ経験を経て就農。ゼロから学んだ理論をもとに、高品質を実現する農法を追求しつづけています。

●直売所
所在地:京都市西京区山田畑田町2-1
営業時間:9時30分~11時30分
営業日:月・水・金・土

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